続発する企業会計不祥事がたたって、日本の株式市場はいまひとつ振るわない。対照的に中国株を筆頭に「新興国市場」は2月下旬の上海発世界同時株安も何のその、再び沸き立っている。日本では札束を鞄(かばん)に詰めて香港に飛んで中国株投信を始めようと個人が列をなすかと思えば、高株価を武器に中国企業が日本企業をのみ込むといううわさが流れる始末だが、慌ててはいけない。株式バブルは必ず崩壊する。株価対策は今や中国にとって一大政治問題である。

 中国株高騰の背後には党がいる。2006年度から始まった第11次5カ年計画では株式市場の育成を打ち出した。国が保有する株式は数年前から徐々に市場に放出されてきたが、党は株式の供給が増えることで株価が下がることを恐れ、国有企業同士による持ち合いに切り替えてきた。工商銀行、中国銀行、建設銀行の大手国有商業銀行には600億ドルの米国債を「資本注入」して香港や上海市場に新規上場し、投資家を惹(ひ)きつけ、特に上海市場では工商銀行と中国銀行と他の金融機関株を市場の目玉株に仕立て上げた。

 その結果、06年には党の思惑通り株式ブームになり、株価は1年間で2.3倍に上昇した。市民は「秋の共産党大会までは党が市場の暴落を防ぐ手段を講じる」と信じるようになった。

 この成功の方程式は、同時に共産党株式会社の命取りになるかもしれない。中国では5月初めの時点で証券会社や投資信託の口座数が9100万を超えた。素人集団によるにわか仕立ての私募投資ファンドも続々と登場している。投資家の数ではすでに日本並みとみられる。さらに1日当たり新たに30万~40万の株式投資口座が増えているのだから、急速な勢いで私有財産の権利意識が大衆に浸透しよう。近代欧州に始まった民主主義は私権が土台になっている。虎の子の銀行預金を崩したり、住宅やマイカーを抵当に入れて株式投資する市民が多いから、株価が暴落したとき大衆が受ける打撃は計り知れないし、党幹部や不透明な政策への不満も高まるだろう。

 株式バブルは管理しなければならないが、株式資本主義の先進国米国でも対策は厄介である。米連邦準備制度理事会(FRB)の元幹部によれば、グリーンスパン議長(当時)は急激な金融引き締めによる90年代日本のバブル崩壊の教訓から、「根拠なき熱狂」という口先介入でバブルの膨張を抑えようとした。ところが「偉大な市場の指揮者」と呼ばれたグリーンスパン議長の手腕を信じたから、投資家はバブル崩壊がないと判断した。

 中国の金融当局者はグリーンスパンの故事に倣ったのだろう。日本の二の舞いになるまいと、金融引き締めには極めて慎重である。その代わり、「上海市場は重力に逆らっている」と警告したり、投信マネジャーに対して「新規に株式投資を始めた者たちは、株のリスクにますます無頓着になっている」と通告している。「インサイダー取引や相場操縦に対する取り締まり策も検討中」という情報を意図的に経済紙に流す。

 党主導の株式市場は利権で動く。株式を保有する政府機関や国有企業、警察や軍関係の機関は既得権益集団と化している。北京が真剣にバブルを懸念しても、「個人投資家が慌てて株式を売れば、インサイダーである党関係者や政府機関、国有企業が買いに入るので株価は持ち直す」と香港の株式アナリストから聞いた。

 知人のある上海の大口投資家は最近、上海株総合指数が4000を超えたとき、大手国有銀行の投信マネジャーから耳打ちされた。「5000が限度ですよ」。個人投資家の間では不安心理もまた膨らんでいる。(編集委員 田村秀男)

Posted by Takumi

2007/05/19 09:52 2007/05/19 09:52
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